このセミナーの内容は、2008年1月25日現在のものです。

立退料とは建物の明け渡しに際して借主に支払う金銭のことです。その内容はあいまいで、金額等についても決まった基準はありません。今回は建物明け渡しの場合、正当事由と関係する立退料について考えてみましょう。

 立退料は法律にも明確な規定がありません。このような立退料がなぜ支払われるのでしょうか。それは貸主と借主との間で立ち退きを巡る争いが生じた場合に、その解決方法として立退料を払うことで、双方の利害の調整をはかるという実際的な理由が挙げられます。
 借地借家法では、建物の賃貸人による更新拒絶の通知または解約の申し入れは、以下の(1)〜(5)などを考慮して、貸主に正当の事由があると認められる場合でなければすることができない、と規定されています。
(1) 賃貸人、賃借人が建物の使用を必要とする事情
(2) 建物賃貸借に関する従前の経過
(3) 建物の利用状況
(4) 建物の現況
(5) 賃貸人が建物明け渡しの条件、または明け渡しと引き換えに賃借人に対して「財産上の給付」をする旨の申し出をした場合におけるその申し出
 従って仮に立ち退きを巡り紛争になった場合は、裁判所はまず(1)〜(4)の事情を踏まえて正当事由の有無を判断し、正当事由が認められれば貸主に軍配を挙げます。一方、双方の事情を比較して貸主側の事情が不十分であると認められると貸主は敗訴してしまいます。このように正当事由としては不十分である場合でも、貸主が立退料を提供すれば、これを貸主側の有利な事情として評価し、正当事由を補完しようというのが法の考え方です。この場合の立退料は、借主の立ち退き、移転による生活上、経済上の不利益などを軽減し、借家を使用する必要性を減少させるという正当事由補完の働きをすることになります。
 立退料は貸主が借主の受ける立ち退きの不利益を金銭で補償するものですが、一般的に以下の3つの内容を持つといわれてきました。
(1) 立ち退きによって借主が支払わなければならない移転費用の補償(内容は下記[ア]〜[ウ]など)
[ア] 引越に必要な費用
[イ] 転居先取得に必要な費用
(敷金、礼金、前家賃、仲介手数料など)
[ウ] 現在の賃料と転居先の賃料の差額
(賃料の差額の約2年分くらい)
(2) 立ち退きによって借主が事実上失う利益の補償
(店舗として貸している場合などのいわゆる営業権の補償など)
(3) 立ち退きにより消滅する利用権の補償
(いわゆる財産権としての借家権の補償、なお、この借家権の評価の方法はいろいろあります)
 立退料はこれらすべての補償を含むというわけではなく、各事例によりどこまでの補償をしたらよいかを個別に判断することになります。これを正当事由との関係であえて分類すれば下記のようになるでしょう。
【A】 正当事由が完備している場合
 借主側に立ち退きの義務があり、貸主は本来立退料を支払わなくてもよいケースです。ただ、借主が任意に立ち退かない場合は、裁判、判決、強制執行などと時間と労力を要しますから、これを回避するために場合により立退料の支払いで速やかな解決をはかることもあります。この場合の立退料は前記(1)の内容を中心に考えることになります。この場合、(1) の[ア]だけか、[イ]までか、[ウ]を含むかは事例により異なります。
【B】 正当事由はあるが万全とはいえず、借主側にも建物使用の必要性等の事由がある場合
 このケースが正当事由の補完としての立退料ということになります。前記(1)(2)の補償が主になると思われます。
【C】 正当事由がない場合
 この場合は貸主の一方的な都合での立ち退きですので、借主が承諾する場合のみ立ち退きが可能となります。従って前記(1)〜(3)すべてを補償する必要があります。
 以上が極めて理論的に考えた場合の立退料の内容になります。しかし、建物老朽化による建て替えなど、貸主に一定の正当事由がある場合がほとんどでしょうから、一般の居住目的建物であれば(1)の補償で解決している事例が多いのではないかと思われます。