このセミナーの内容は、2005年11月1日現在のものです。

抵当権が設定されている賃貸物件が競売された場合、その物件に入居している借家人の借家権はどうなるのかについて、平成16年4月の民法改正により、取り扱いが変わりました。
少し専門的な話になりますが、実務上、大きな影響のある問題ですので、改正内容とその影響について解説しておきましょう。

 これまで民法は、短期賃借権の保護といって、契約期間が3年を超えない建物賃貸借については、その建物に対する抵当権の設定登記後に契約されたものであっても、一定の場合には抵当権者に対抗できるとしていました。
 「対抗」というのは法律用語で、借家権を主張できるという意味です。建物賃貸借契約をする時点では、その賃貸物件に抵当権が設定されているケースが大半だと思われます(特に新築してあまり年数が経っていない物件の場合には、建築費用を借入れたローンが残っている場合がほとんどです)が、このような場合に、物件のオーナーが将来ローンを返済できなくなり競売されてしまった場合、借家権がどういう影響を受けるかをあらかじめ考えて、賃貸借契約を結ぶ入居者は、まずいないと思います。
 しかし、あまり知られていませんでしたが、これまでの民法では、契約期間が3年を超える賃貸借の借家権は、競落後の買受人に対抗できない(競落後に買受人から立退きを求められたら立退かなければならず、その際、買受人に対して敷金の返還すら要求できない)のに対して、契約期間が3年を超えない短期賃貸借の借家権の場合は、競落後に賃貸期間が満了するまでは立退きに応じる義務はなく、敷金も買受人から返還してもらえます。ただし、競落前に賃貸期間が満了してしまった場合は、その後の更新は買受人に対抗できず、立退きを求められれば応じなければならないし敷金も戻らないというように、実は、契約の年数や、契約期間がいつ満了するかによって、借家権が対抗できるかどうかの結論が異なってくるという制度になっていたのです。
 平成16年4月1日から施行された改正民法は、短期賃借権の保護を廃止しました。その理由は、この制度が、俗にいう占有屋などによって競売妨害のために悪用される事例が相次いでいたことや、契約期間の満了時期と競落のタイミングの先後によって保護が受けられるかどうかが変わってくるなど、合理性に欠ける面があったからです。
 そして改正民法は、抵当権設定登記前に賃借権の設定が済んでいるケースを除いて、その後に設定された賃借権の場合には、契約期間の長短にかかわらず、すべて競落後の買受人に対抗できないこととしたのです。
 ただし、対抗できない以上、買受後直ちに借家人は立退かなければならないとすると、あまりに借家人の不利益が大きくなってしまうことから、買受日から6ヶ月間だけは立退きに応じなくてもよいことにしています。
 抵当権が設定されていない賃貸物件は(築年数が新しいものは特に)少なく、抵当権設定登記前に賃借権の設定が済んでいるというのは極めて例外的なケースです。
 したがって、大半の借家権は改正民法の適用を受け、買受人に対抗できないこととなります(もっとも、平成16年4月1日時点で、すでに設定されている短期賃借権については、従来通りの保護があります)。
 この結果、賃貸物件が競売されてしまうと、借家人は6ヶ月以内に立退かなければならなくなり、借家権の保護は大きく損なわれる結果となります。また、この場合、賃貸物件の買受人は敷金の返還義務を承継しませんので、借家人は敷金の返還すら求められなくなるのです(敷金ではなく保証金については、改正前の民法当時から、競落後の買受人は返還義務を承継しないとするのが裁判例でした。改正後においても、買受人に対して保証金の返還を要求することはできません)。
 原状回復費用に敷金を充当できるかどうかについて、オーナーと借家人との間でシビアな対立が生じるケースが多くなっていますが、今回の民法改正は、敷金の返還要求自体ができなくなるという意味で、借家人への影響は大きいものがあります。
 改正民法の内容や、それがどのような影響をもたらすのかが、あまり広く知られていない状況にあるだけに、今後そういった問題をめぐってトラブルが発生することも予想されます。