このセミナーの内容は、2008年10月25日現在のものです。

「成年後見制度」は、認知症や知的障害などの理由で判断能力の不十分な方を保護し、支援する新たな仕組みとして、平成12年4月からスタートしました。まだ馴染みの薄い制度ですが、適切に利用すれば、財産の管理や資産承継における困難な事態を、解決する決め手となります。

 「成年後見制度」は、従来「禁治産宣告」とか、「準禁治産宣告」といっていた制度が廃止され、平成12年4月から始まりました。ひと口に「成年後見制度」といっても、民法が定めている「法定後見制度」と、任意の契約による「任意後見制度」の2種類があります。
 そして「法定後見制度」は、本人の心身の状態に応じて「後見」「保佐」「補助」の3つのレベルに分かれています。本人が完全な植物状態にあるとか、ごく日常的な事柄(家族の名前など)もわからなくなっているなど、最も重い状態にある場合に認められるのが「後見」です。それに対して、財産の売買や金銭貸借などの重要な財産行為を自分でもできるかもしれないが、適切にできるか心配であるような場合や、いわゆる“まだら呆け”の中で軽度の人など、最も軽い状態の場合に認められるのが「補助」です。その中間の、“まだら呆け”の中でも重度の人の場合などには「保佐」が認められます。
 「法定後見制度」を利用するには、まず本人もしくは家族等から、本人の住所地の家庭裁判所に対して申し立てをする必要があります。家庭裁判所は、医師に対して本人の状況を確認するなどした上で、「後見」「保佐」「補助」のいずれにするかを決定します。
 私が実際にご相談を受けた中に、お父さま(80歳)が所有している土地に、息子さん(50歳)の名義で賃貸住宅の建築を計画しているが、お父さまが認知症で寝たきりの状態というケースがあります。
 建築の請負契約や、金融機関から建築資金の融資を受ける契約は、息子さんが当事者として契約をするので問題ありませんが、融資を受ける際には新築する建物だけでなく、敷地も担保(抵当権設定)に入れなければなりません。しかし、所有者であるお父さまが意思表示できない状態にあるため、金融機関の審査をパスできない。このままでは融資が受けられず、建築計画を断念せざるを得ない、という切羽詰まった状況でした。
 このような場合、お父さまに成年後見人を付ければ、後見人にはお父さまの財産を全面的に管理する権利や代理権などが与えられますので、抵当権設定契約をお父さまに代わって行うことができ、融資を受けることが可能になります。
 実際にご相談のケースでも、家庭裁判所に後見人を選任してもらうことによって、計画通り無事に賃貸住宅を建築することができました。
 「法定後見制度」を利用する場合は、家庭裁判所に申し立てをしなければならないため、費用や手続きの手間に加えて、後見人が選ばれるまでに数カ月間の時間がかかります。
 前述のケースでは、お父さまが認知症になる前に早めに建築計画に着手していればよかったのですが、さまざまな状況でそうもいかない場合もありますし、知らないうちに認知症が進行してしまっていたというケースも多々見られます。
 そのような場合に備えて活用できるのが、「任意後見制度」です。これは、本人があらかじめ自分の意思で、後見人となるべき人(任意後見受任者)と契約を交わし、その後のことを頼んでおくことができる制度です。
 特に頼れる身寄りがいない人などは、「任意後見制度」を利用して将来の備えをしておくと安心でしょう。また家族がいても、本人が認知症になると、家族が財産を巡っていがみ合いを起こすことが予想されるようなケースでは、それを防止するために公正な第三者を任意後見受任者に指名し、財産の管理を委ねたほうがよい場合もあります。
 まだまだ馴染みの薄い「成年後見制度」ですが、ご自分やご家族のために適切な利用を検討してみる価値のある制度といえるでしょう。