このセミナーの内容は、2006年6月25日現在のものです。

東京圏では、アパートなど賃貸住宅の平均賃料がほぼ横ばいで推移しています。しかし、その内容を見ると新築で質の高い設備を備えた部屋は賃料が上昇していますが、築年数を経過した物件は空室が目立ち、賃料相場も下落。上限賃料と下限賃料の幅は一段と広がっています。こうした傾向は大阪・名古屋・福岡といった大都市圏だけでなく、地方都市も同じです。どうやら、賃貸住宅市場も格差社会の兆しが出てきたようです。


 東京圏では、1K〜1DK、2DKともアパートの平均賃料がほぼ横ばいで推移しています。ところが、新築や築後年数が浅く、しかも設備機器のグレードが高くて防犯対策のしっかりした、少し広めの部屋は、強気な家賃設定でも空室の心配がほとんどないのに対して、古い物件は多少賃料を下げても空室が埋まらない部屋が増えています。
 「入学や転勤で需要の最盛期だった3月に入居者が決まらなかった部屋は、当分、空室のままでしょう」という東京郊外で主に賃貸住宅の仲介を手がける不動産業者の話に代表されるように、賃料の二極化現象が一段と鮮明になってきたのが現在の賃貸住宅市場です。
 こうした賃料の二極化現象は、東京圏だけでなく大阪、名古屋、福岡の大都市圏や地方都市でも変わりがありません。供給量が少ない新築のファミリータイプは、どの都市でも人気がありますから、入居待ちが列をなすという物件も見かけられます。その一方で、最需要期である3月に募集賃料を周辺相場よりかなり下げたにもかかわらず、空室が埋まらないという部屋も実は多く、結果として全国的に上限賃料と下限賃料の幅が広がっているわけです。

 住宅新報社の家賃調査から、最近の賃貸住宅市場の動向を探ってみましょう。
 住宅新報社は毎年、春と秋の2回、東京・大阪・名古屋・福岡の4大都市圏と全国55の地方都市のアパート家賃調査を行っています。調査対象は、原則として最寄りの駅から徒歩10分程度に立地する部屋で、間取りタイプは1K〜1DK(居住面積20〜25m2)と2DK(同35〜45m2)です。
 調査方法は、調査会社から提供を受けた物件データに、各駅毎に賃貸物件の仲介を主に行っている複数の不動産業者からヒアリングで得た情報を加え、成約賃料または成約すると想定される賃料の上限(新築または築浅)と下限(築10年前後)を集計したものです。ただし、地域によっては流通物件にばらつきがありますから、相場から極端に外れる事例は除外しています。
 直近の調査(2006年3月1日現在)によると、東京圏では前回調査(2005年8月20日現在)と同様に基本的にはほぼ横ばい基調で、1K〜1DKは上限が7万1568円(前回調査比0.19%上昇)、下限が5万5185円(同0.23%下落)で平均6万3377円(同0.01%上昇)、2DKは上限が9万7185円(同0.05%下落)、下限が7万2692円(同0.45%下落)で平均8万4938円(同0.22%下落)でした。
 1K〜1DKタイプは下限が4期(2年)連続して下落していますが、これは建物や設備機器が古い物件が多かったことが影響しているようです。また、2DKタイプは上限・下限ともわずかながら下落していますが、2DKタイプを志向するユーザーにマンションタイプを求める傾向が強まってきているためだと推測できます。

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 東京圏の賃料動向を、もう少し具体的に見ていきましょう。
 個別ポイントでもっとも平均賃料が高かったのは、1K〜1DKが東急東横線の代官山駅周辺で10万円、2DKが同じ東急東横線の中目黒駅周辺で13万7500円でした。ただ、前回調査でも見られた東京23区内の弱含み傾向は、今回、一段と顕著になってきました。これは、地価の下落などによりマンションの供給が過剰になってきているため、賃貸物件でも古いアパートタイプを敬遠する人が増えていることが一因です。
 これに対して、神奈川県の川崎市と湘南地域は強含みだし、東京西部や埼玉西部、千葉県の常磐地域でも上限賃料が上昇しています。特にファミリータイプの堅調ぶりが目立ち、中でも上限家賃、つまり新築物件は大幅に上昇しています。例えば、西武池袋線は椎名町から所沢までの8駅でファミリータイプの賃料が下落したのは所沢駅周辺だけで、それ以外はすべて上昇しています。また、柏や松戸などを含む千葉県の常磐地域は、つくばエクスプレス(TX)の開通で都心への交通の便が改善されたため、上限家賃が半年前に比べて2〜3%も上昇しています。
 こうしたことから考えると、アパートへの入居希望者が求めているのは従来からの人気沿線ではなく、都心へのアクセスが優れたエリアに志向が変わってきていることがうかがえます。

 賃貸住宅市場は、賃料が安ければ空室が埋まる時代ではなくなりました。賃料が周辺相場より多少割高でも、美しい外観デザインで設備水準の高い、しかも居住面積が広い新築アパートでなければユーザーの支持を得られません。
 今、大都市圏では値ごろ感のある新築マンションが都心に近いエリアでも大量に供給されています。団塊ジュニア向けの建売住宅も、近郊から郊外で供給が増えています。そして、それらは順調に売れ行きを伸ばしています。このため、賃貸住宅といえどもマイホームに匹敵する水準を満たしていない限り、空室を覚悟しなければならないといえそうです。
 人気物件に共通しているのは、入居者ニーズの多様化に応えられる質の高い部屋です。最近の若い世代は、自分のライフステージやライフスタイルに即対応できる部屋を求めています。不動産総合サービスのアットホームが毎年行っている、首都圏の大学生を対象にした部屋探しに関するアンケート調査でも、数年前まで人気ナンバーワンだったワンルーム希望者が激減し、少し広めの1DKや1LDKを希望しています。また、独立したバス・トイレや備え付けのエアコン、造り付けの収納だけではなく、セキュリティの充実など機能面での要求も高まっています。賃貸だからこそ、オーナーには常に最新設備の導入を求めているのです。

 3000室以上のアパートを管理している埼玉県蕨市のある不動産業者は、「今、極端に不足しているのは新築の2LDKで、2月に完成した大手ハウスメーカーが施工した物件は入居者を募集した初日に全室が契約できた」といいます。ユーザーの支持を得た理由は、外観デザインやインテリアのセンスのよさに加えて、キッチンや浴室など水まわり設備が充実していたことと、優れた防犯対策で競合物件と差別化したことです。
 郊外では、建物や設備の質とともに駐車スペースが敷地内に完備していることも大事な条件です。最寄りの駅から多少離れていても、駐車スペースが確保されていれば競合物件との差別化ができますから、空室の心配が少ないはずです。
 繰り返しますが、今日の賃貸住宅市場は入居待ちが列をなす人気物件と、賃料を下げても空室が埋まらない部屋との二極化が一段と加速しています。人気物件とは、設備の充実した少し広めの新築です。JR中央線と井の頭線を最寄り駅とする吉祥寺は、常に住んでみたい街ランキングの上位に顔を出す人気スポットですが、築年数を経過した昔ながらのアパートは敬遠される傾向が強まり、結果として賃料相場も弱含みです。ところが、新築物件には人気が集まりますから確実に上昇しています。人気のある吉祥寺でも、二極化が鮮明になっているのです。
 これからのアパート経営は、入居者ニーズにいち早く対応することです。老朽化したアパートは、賃料を下げたりリフォームで維持するのではなく、質の高い建物に建て替える積極的な経営こそが、安定経営への近道だと思います。



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