このセミナーの内容は、2006年3月25日現在のものです。

一般の借家契約は、契約期間が満了しても直ちに契約が終了するわけではありません。また、入居者の迷惑行為や契約違反があった場合でも、その違反が貸主との信頼関係を破壊したと認められなければ解除できないとされています。今回は、借家契約を解除したい場合、法律ではどのような基準で判断が下されるのか、具体例をあげてご紹介します。

 契約違反により借家契約を解除するためには、契約に違反した行為が、当事者間の「信頼関係」を「破壊」したと認められる場合でなければならないとされています。これは、借家契約などの継続的な契約は、当事者間の信頼関係を基礎に成り立っていること、また、借家契約は、借主の生活の基盤となる契約でもあることから簡単に解除できるとすれば不都合が生じる、などの理由から付加された要件です。契約解除が認められるかは、この信頼関係が破壊されたかどうかを個別に判断していくことになります。
以下、いくつか例をあげて解説しましょう。
 契約が更新される場合には、家賃の1ヶ月分程度の更新料の授受がなされるのが一般です。契約書には「更新料支払いの特約」が記載されているのが普通ですが、このような特約自体は有効とされてよいでしょう。
 では、特約がある場合、更新料の不払いを理由に契約を解除できるでしょうか。肯定する判例と否定する判例がありますが、不払いの更新料が家賃の1ヶ月程度の場合、その不払いは当事者間の信頼関係を破壊するものではないとして、解除を否定した判例を参考にするべきでしょう。
 無断転貸の典型例は、第3者に借家を全部又貸ししてしまうものです。このような場合には信頼関係を破壊したと認められる場合が多いといえます。
 借家で個人営業していた借家人が、税金対策のために事業を会社組織にして使用していた場合などはどうでしょうか。会社組織にした後も営業実態が個人営業の時と何ら変更がなく、従業員や建物の使用状況も同一であるような場合は、信頼関係を破壊するものではなく、したがって契約解除ができないとした判例があります。これを前提にすれば、会社組織に改める前後において経営の実態や建物の使用方法に変更があるような場合には、信頼関係の破壊と見なされ、解除できるということになります。
 また、借家は通常貸主の所有するものですから、無断で建物に改変を加えることは契約違反行為です。しかしこの場合も、承諾を得ないで行った建物の改造が、信頼関係を破壊するかどうかが問題となります。判例は、改造の規模、程度、復旧の難易度、賃借建物の用途や目的、貸主の制止に対する借主の言動などを考慮することにより、背信性の有無を個別に判断しています。
 アパートなどの借家の場合、複数の借主が居住しているのが一般的ですが、このような場合、一部の借主の迷惑行為が近隣住民の生活に多大な支障を及ぼす場合があります。
 例えば、室内に大量のゴミを放置し、異臭を放っているような場合、これを理由に契約解除ができるでしょうか。ゴミ放置が多少不潔だからといって直ちに契約を解除することはできません。ただ、このような場合には、逆に迷惑を被っている他の借主側から契約を解除されるといった逆説的な状況も起こり得ます。
 その放置が一般人の常識を越え、共同生活上の秩序を乱す場合や、衛生面や防火面にも影響を与えるような場合には、信頼関係が破壊されたとして、契約解除が可能と思われます。
 家賃の支払いが、賃貸借契約の基本的な義務である以上、その不払いは契約解除の原因になります。ただし、1ヶ月分の家賃を滞納したからといって直ちに解除することは原則としてできません(契約書に1ヶ月でも滞納すれば契約を解除できると書いてある場合でも同様です)。この場合も不払いが当事者間の信頼関係を破壊するかどうかが判断基準です。個別の判断にはなりますが、3〜4ヶ月分位の滞納が解除できる一応の目安になると思われます。